KickerのClass D パワーアンプが流れ着きました。
電源は入るけど、音がでないという状態とのこと。電源の問題かと思いましたが、目視では、異常は見当たりませんでした。
色々しらべてみると、原因は意外なところ,内部DSPのプログラム揮発でした。なんとか、音は出るようになったのですが、歪が気になります。
さて、Kickerの素晴らしい性能を蘇らせることができるでしょうか。
はじめに
KickerのIQシリーズは、内部にDSPを内蔵しています。
また、アナログアンプと同じ使い方ができるように、ゲインや、クロスオーバ、Kicker EQなどがパネルで調整できます。また、パネルロックをすることで、内部DSPですべて処理するモードに切り替えることができます。
このIQ500.2は、IQシリーズでもチャネルあたり一番パワーを有しているアンプです。
Kicker 100.5
DSP内蔵Class D 5ch パワーアンプ Kicker IQ 1000.5 - pp audio blog
内部
500.2の構成は、いくつかサブ基板が装着されています。
写真では見にくいのですが、左脇にControlという名称での小基板が装着されています。
これは、Class Dの制御を司る基板です。
故障解析
最初に音が出ない原因を調査しました。
1解析(電源電圧)
電源は、正常に出ているのは確認できました。プリアンプ用の電源±15Vも問題ありませんでした。
2解析(DSP状態)
つぎに、DSPの状態を確認するために、USBを接続してみました。
PCでデバイスとして認識、KickerのソフトTweEQのソフトを起動しリンク。
FW(内部ソフト)のUpdateが必要のメッセージが現れました。
アップデートを行うことがで、FW Version及びSerialNoが表示されました。
3解析(音出し)
もう一度、音がでるか確認してみると。音が出ることが確認できました。
ですが、なぜか音にどうしても気になる歪みが感じられます。
歪解析
高調波抑制
歪を解析するためには、Class Dの高調波を抑制する必要があります。
現状では、IQシリーズの標準的なキャリア信号が確認できます。
可聴範囲ではないのですが、歪の状態を見るため、前回のフィルタを追加します。
歪の状態
歪の状態を確認していると、音量が小さいときは、歪が小さく、大きくなるときに歪みがあるように聞こえました。
正弦波の音量を変化させて確認すると
音量の変化、レベルの変化で、歪があることがわかりました。
矩形波を利用して、レベルによる違いを探ってみました。
矩形波のレベルでキャリア周波数が変化するのがわかりました、どうやらこれが歪みになにか関係がありそうです。
ClassD 回路
Class Dの回路は、Si8241というチップを使って、実現しています。
このチップは、PWM信号により出力素子のタイミングを制御しており、PWMのキャリア周波数は生成していないことがわかります。
推奨回路をしらべてみると
みると、アナログ信号と出力の信号を加算しています。
FeedBack Amprifileは、高周波を積分し、PWMの周期を生成していると考えられそうです。
ですがレベルによって周波数が、変化するとは考えにくいです。
Class D制御基板
推奨回路との違いを見つけるため、Control基板の入出力信号に、SYNC信号があることがわかりました。
それでも、同期信号は複数はありません。
もう少し詳しく調べるため、回路を起こしてみました。機密上詳しい説明は避けますが、内部発振と外部発振を切り替えていることがわかりました。
その回路の一部の素子が壊れていることがわかり、交換してみました。
Class D 制御修繕
素子を交換して確認してみました。
レベル切り替えによる歪がなくなったことがわかりました。
これで、オリジナルの性能に修繕できたと考えられます。
基本メンテナンス
Class Dのアンプは、スイッチング素子のタイミング確認を念のため行います。
Class Dタイミング
VOUT信号(SPの前段)の勾配を確認します。
わずかですが、スイッチングのDeadTimeが少ないことがわかりました。
調整することで、歪や、発熱を低減することができます。
約50nほど遅くすることでかなり良くなりました。
電源調整
IQシリーズの電源は、固定発振方式で、入力電圧に左右される傾向があり、FBを追加することで、低電圧動作にできることがわかっています。
この改造により、入力電圧にも安定した内部電圧を供給することができるようになりました。
仕上げ
最後に、電源の状態と、出力を確認します。
電源状態(一次側)
電源のリップル状態を確認します。
通常の変動範囲内であることがわかりました。
電源状態(二次側)
同じ様に二次側も確認します。
フィルタがはいっているので、とても良好です。
周波数特性
最後に周波数特性を確認します。
低域も-2dB以内で20kHzまでフラット。 DSPでサンプリングされているため、22kHzあたりが上限になります。
まとめ
Class Dのアンプは、小型でハイパワー。低歪のアンプですので、使い方次第で驚くような音をかもし出すことができます。一方、多機能で高密度の為、故障が少し起こりやすくなることも事実です。
今回の動作不能は、電源回路が固定発振であり、電圧が上昇した際に、Class Dの制御回路に負担がかかってしまったと考えています。
同じような問題でお困りの方は、当方まで、ご相談ください。
使用した機器
DAC(D10)
測定用にはD10というDACを用いています。
現在は、後継機のD10Sがあります。
正弦波もとてもきれいです。
オシロスコープ(SDS1102)
使用している測定器は、SDS1102というデジタル・オシロスコープ。
廉価版(3万円以下)でオーディオの帯域では十分な能力を有しています。
FFTを駆使すれば、ノイズや、歪の傾向も見ることができます。
波形貼り付けもPCにUSBで可能です。
奥行きがとても薄いので、机の上に常備しています。