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オーディオと電源回路 ピアニシモを聞くために

DSP内蔵Class D 5ch パワーアンプ Kicker IQ 1000.5 ③

5chのデジタルパワーアンプ Kicker IQ 1000.5のメンテナンス整備ファイナルです。

これまで、電源回路をきちんと動作するようにカスタマイズ。ですが、しばらくするとClass Dの制御が不安定になり、発振してしまいます。

色々調査したところ、プリアンプの電源が少しずつ低下してくるのが原因であることがわかりました。

おさらい

スイッチング電源カスタマイズ

なぜか、電圧のフィードバックがなく、フルDutyで、トランスの磁気が飽和して動作している状態であった電源回路をカスタマイズ。

 

安定した電圧が供給できるように。

Class D調整

Class Dの出力素子がいくつか壊れてしまっていたのを、交換。

正極と負極の素子が交互にOnするタイミングの間隔を調整

理想状態にしました。

Class D発振

しかしながら、10分程度どうささせると、Class DのICへのPWM信号の波形に乱れが

Lowになってから盛り上がりが徐々に上昇し、最後にはPWM制御ICが誤動作してしまい
大きなノイズが出力されてしまいます。

Class D誤動作解析

このアンプは、Class Dの回路のプリアンプ部を小基板で構成しており、解析をむずかしくしています。

小基板の取付をハンダ面に仮付して、解析をしてみました。

基板のパターンを追いかけて、Class Dの制御ICの基本回路と照合

 

同期信号(Sync)が付加されていますが、推奨回路にもとづいて設計されていました。

出力のパルスからのフィードバックを追いかけ

とてもよい状態であることがわかります。

(右側は、OpAmpのバーチャルグランド状態で、拡大して変動を見ています)

 

次に、音声波形をこの三角波と加算

理想的な状態で特におかしな波形は見つけられませんでした。

ゆっくりと波形が変化

異常は、徐々に変化しており、素子の温度上昇に起因すると考えられました。

最初は、この回路のコンパレータの温度上昇による異常かと考えてみましたが、納得できません。

色々調べてゆくうちに、プリアンプの正極側の電圧が徐々に低下してゆくのがわかりました。

プリアンプの電圧低下

この低電圧のツェナーダイオードを正負交換し、電圧の変動によるバランスがズレないように修正すると、見事にClassDの異常はなくなり、きちんと動作するようになりました。

出力確認

問題が解決、きちんと動作するようになりましたので、出力状態を確認してみると。

キャリア信号(250kHz)が漏れがあり、

f特にも、超高域で少し上昇していることがわかりました。

キャリア信号

キャリア信号を拡大してみると

キレイな(?)正弦波。ですが、1V(rms)程度ありそうで、少し心配です。

Class Dインダクタ交換

以前インダクタをトロイダルコイルにして改善した経験をもとに、交換。

キャリアの漏れは、少なくなりましたが、高域が少し低下しています。

 

また、コイルもかなり発熱、消費電力も5W程度上昇してしまいます。

調べてゆくと、キャリア信号の元の波形に変化が

どうも、コア材での損失が大きく、高域のエネルギーを吸収しているようです。

残念ながらこの状態では使えません。

インダクタ追加

標準のフィルタ後にインダクタを追加し、キャリアの低減及びf特の調整をほどこしてみました。

フィルタの計算を行い、30uH以下が良さそうでしたので、コイルの容量を、少しずつほどいて調整

ちょうど良さそうな値を見つけました。

 

ほぼフラットになり、
キャリア信号も、1/4程度

元のアンプの性能を大きく変えない範囲で、改善できました。

まとめ

今回は、電源の回路とClass Dの誤動作の解析に、様々な調査が必要で、一年近く修理に時間を頂いてしまいましたが、なんとか、きちんと動作するようになりました。

周波数特性

最後に周波数測定を確認して

完了です。

Class Dは、効率の良いアンプで、大きな電力を必要とするカーオーディオには、良い選択です。

今回、かなり時間を頂いてしまいましたが、きちんとメンテナンスしましたので、オーナの元で末永く、音楽を奏でてくれると思います。

 

****

デジタルアンプは、入力を一旦デジタルにして出力のPWMもデジタルで制御と思いがちですが、このアンプも、最終のClass D出力段は、アナログ入力でPWMもアナログ回路。アナログの知識が無いと、不具合解析はもとより、改善は難しいです。

 

Class Dのアンプは、キャリアの漏れや、電源回路の安定に問題がある機種もいくつか見かけます。

同じような問題でお困りの方は、当方まで、ご相談ください。

 

使用した機器

DAC(D10)

測定用にはD10というDACを用いています。
現在は、後継機のD10Sがあります。

TOPPING D10s DAC Mini USB DAC XMOS XU208 ES9038Q2M DSD256 PCM 384kHz Hi-Res オーディオデスクトップ オーディオデコーダー (ブラック)

正弦波もとてもきれいです。

 

オシロスコープ(SDS1102)

使用している測定器は、SDS1102というデジタル・オシロスコープ

廉価版(3万円以下)でオーディオの帯域では十分な能力を有しています。

OWON ハイコストパフォーマンスデジタルオシロスコープ 1Gs/s 100MHz帯域 薄型軽量 SDS1102【国内正規品】【メーカー直営3年保証】【日本語取扱説明書対応】

FFTを駆使すれば、ノイズや、歪の傾向も見ることができます。

波形貼り付けもPCにUSBで可能です。

奥行きがとても薄いので、机の上に常備しています。